JIS規格とは
製品のサイズ・品質や測定法など「規格」を定めた日本の「国家規格」のことです。JIS規格に準拠している(適合している)ものは一定のサイズや品質などが規格によって保たれていることが保証されます。
たとえばトイレットペーパーのサイズはJIS規格によって幅114mm・芯の内径38mmなどと定められています。この標準化により、どの家庭のホルダーにも取り付けられるようになっています。
他にもスケール(ものさし)にもJIS規格があり、適合のスケールを使用すると定められた誤差の範囲で測定可能であることが保証されていることになります。
2021年6月16日、マスクJIS制定
2021年6月16日、経済産業省と厚生労働省よりマスクのJIS規格が制定されました。
制定は上省ですが、認定・管理等の運用を行うのは一般社団法人 日本衛生材料工業連合会(以下日衛連)になります。
目的は、
この規格は、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、マスクの品質に関する関心が高まっているところ、医療従事者や一般の国民の皆様等が、安心してマスクを着用するに当たって、その選択に資するよう、マスクの性能及びその試験方法についての標準化を図ることを目的として制定するものです。
とあります。
なぜ今マスクJIS?
今までは日本にはマスクに対する公的規格がなかったため、マスクにどのような性能があるか表示するのはメーカーの自由でした。(もちろん薬機法や景品表示法に違反する表示はできません)
米国にはマスクの規格としてASTMという規格があったため、公的な性能を示したいメーカーはこのASTMに適合する旨を表記したりしていました。
(JIS T9001 医療用マスクはASTMとほとんど同じ規格)
今後はこの日本産業規格のJISによる認証を受けた製品に表示が認められるようになります。
マスクJIS規格の内容は?
今回2つのJISが制定されました。
- JIS T9001:医療用マスク及び一般用マスク
- JIS T9002:感染対策医療用マスク
大まかに3つの分類に分かれていることになります。
感染対策医療用マスクは米国NIOSHが制定したN95マスクの日本版でマスクというよりも「呼吸器保護具」として医療従事者が結核患者等からの空気感染予防に使用するものです。その目的から装着時には呼吸がしづらいことや、装着にあたりフィットテストをし自分にあった製品を選ぶことが医療現場では望ましいことなど、日常的に使用する目的での製品ではない医療従事者向けマスクです。
一般に流通するマスクは、医療用マスクまたは一般用マスクになります。
2つの規格は以下に規定されたものを適合したものになります。
項目 | 医療用マスク | 一般用マスク | |||
品質基準 | 品質基準 | ||||
クラスⅠ | クラスⅡ | クラスⅢ | |||
機能 項目 |
ウイルス飛まつ捕集効率(VFE)% | ≧95 | ≧98 | ≧98 | ≧95 |
バクテリア飛まつ捕集効率(BFE)% | ≧95 | ≧98 | ≧98 | ≧95 | |
微小粒子捕集効率(PFE)% | ≧95 | ≧98 | ≧98 | ≧95 | |
花粉捕集効率試験 | ≧95 | ||||
可燃性 | 区分1 | 区分1 | 区分1 | ||
人工血液バリア性 kPa | 10.6 | 16.0 | 21.3 | ||
安全・ 衛生 |
通気抵抗(圧力損失)Pa/cm2 | <60 | <60 | <60 | <60 |
遊離ホルムアルデヒド μg/g | ≦75 | ≦75 | |||
特定アゾ色素 μg/g | ≦30 | ≦30 | |||
蛍光試験 | 蛍光をみとめず | 蛍光をみとめず |
注目点として、医療用マスクは機能項目がすべて基準値内である必要がありますが、一般用マスクは機能項目のPFE・VFE・BFE・花粉のうち
どれか一つでも95%以上を満たしていれば適合となります。(安全・衛生項目はすべて)
どのように表示されるの?
適合したマスクに関しては、以下のような表示をパッケージに表記することができます。(JISマーク〄の表示ではありません)
一般用マスク
医療用マスク
表示の見方は
まず、一般用マスクか医療用マスクどちらに適合かを見ます
一般用マスクならば機能項目のどれが適合しているか
上記の例だと花粉のみ適合品の製品であるという表示
医療用マスクならばどのクラスの品質基準が適合しているか
上記の例だとクラスⅢ適合品の製品であるという表示
クラスⅠ<クラスⅡ<クラスⅢの順に求められる性能が高い基準をクリアした製品
どんなマスクにJISの表示がつくの?
JISの認定を受けるためには上記の性能を満たしている旨の認定機関の試験結果データを日衛連に提出し、審査を受け合格できれば適合マークと適合番号が発行され、それらをパッケージに表示することができます。
ただしマスクJISは任意の規格なので、流通するすべてのマスクが適合審査を受けるものではありません。
認定を受けるかどうかはあくまで製造メーカー(または販売者)が決めることで、認定を受けていないマスクは販売してはいけないということでは決してありません。
スケールで言えば、製図や測定など正確性が求められる用途でJIS適合の製品を使用することもあれば、ただ直線を引くためだけだったり、軽さを重視する場面もあるでしょう。その場合は例えば100円ショップで販売されているプラスチック製で十分ということもあるかもしれません。もしかしたら中にはJISの認証を受けていないスケールでも、適合品以上に正確な製品もあるかもしれません。
マスクに関しても同様に、すべての製品が認証を受けなければならないわけではありません。ただ、今まで公的な一定以上の品質保証をする制度が日本にはなかったため今回マスクJISを制定し、適合品が流通することにより、それ以外のものと比べて評価できるようにわかりやすくした制度です。
まとめ
マスクが必需品のようになった現在、マスクそのものの種類も増え販売する業種も多様になりました。それに伴い、表示される表現・謳い文句なども多岐にわたっています。
中にはその表示が薬機法や景品表示法に抵触し、課徴金が課せられたり回収されたマスクもありました。
もちろん今回のJIS認定を受けたマスクでも上記に違反する表示を行えば同様の処置になりますが、審査にはパッケージも含まれていますので、規定された表記がされていない製品には認定許可がおりないことでしょう。
裏を返せば、認定を受けていない製品の表記には規制はなく、JISの試験の基準を満たしていない製品でも「サージカルマスク」等表記することは問題ないことになります。
よって「サージカルマスク」と表記されていても、JIS適合品のサージカルマスクなのかはパッケージに上記の表記があるか確認する必要があります。
制度・表記に関してはわかりづらい部分も多少あると思われますが、標準化されることにより一定以上の品質の確保がなされることは消費者にとっては安心できる制度であることでしょう。
マスクJIS規格のポイントとして、
- 今回制定されたのは医療用マスク、一般用マスク、感染対策医療用マスクの3規格
- どの適合品かはパッケージに記載され、表示方法も規制がある
- 認証は受けても受けなくてもよく、受けていない製品でも販売してよい(JISは任意の規格で強制ではない)
- よって流通するマスクは混在するため、表示をよく確認する必要がある